四.国際家事調停の利点
1.調停では裁判より広い範囲の問題につき解決できる。
ハーグ条約は、子の監護の問題ではなく原状回復(速やかな返還)のみを目的としているので、返還がなされた後、その地の裁判所で監護、養育費等の問題解決のために改めて法的手続をとることが必要となる。しかし、調停では子の返還を任意かつ友好な関係を維持しつつ達するということの他に、同時に離婚、財産分与、慰謝料、親権(監護権)、養育費、面会交流、教育問題等必要なすべての事項につき合意し、問題を一挙に解決できる。
2.友好的な解決であるから執行が容易である。
裁判による返還命令で直接強制がなされる場合には、執行官と警察が泣き叫ぶ母親から強制的に子を取り上げ、外国に返還するという事態もありえる。また、間接強制の場合には多少の経済的ペナルティーを課せられても子を返還しないということもありえる。
しかし、調停で当事者が協議のうえ友好的に解決した場合には自発的に履行しようとするし、養育費の支払等で若干遅れることがあっても都合をつけてできる限り早期に支払うための努力が期待され、執行での困難な事態を避けることができる。
3.刑事罰を回避できる可能性が大きくなる。
国際的な子の連れ去りは、連れ去った親またはそれに協力した親族(場合によってはその弁護士さえも)刑事罰をうけうる可能性がある。例えば、子を米国から連れ去った母親が、子を連れて子の父親と面会させるために米国を訪問した場合には母親は逮捕される可能性がある。フランスやドイツにおいても子の連れ去りは犯罪とされている。
しかし、調停により友好的に解決した場合には、連れ去られた側から嘆願書等を司法官憲に提出してもらえば被害者の宥恕があるから、厳しい追及はされないであろうし、今後の国家間の国際的な交渉により、かかる場合の刑事免責をお互いに保証することにすれば、更に望ましい結果となる。
4.調停は損害賠償請求訴訟を回避しうる
ハーグ条約は子の返還のみを定めているだけなので、子を連れ去られた親から連れ去った親に対し、不法行為に基づく慰謝料等の損害賠償請求訴訟を提起することは可能である。調停成立の場合には、通常末尾に「両当事者間においては前各項に定める以外に何ら債権債務のないことを確認する」と明記するので、このような将来の派生的な訴訟を避けることができる。
5.調停はより訴訟より望ましい解決である。
ハーグ条約は7条Cで中央当局に対し、「子の任意の返還を確保し、または問題の友好的な解決をもたらすこと」を求めている。ハーグ条約自体、裁判による一方的な返還命令よりも、「任意の返還」または「友好的な解決」が望ましいことを認め、中央当局にそれを試みるよう求めていると言える。ドイツ家事調停協会とフランスのMAMIFの報告では、たとえ調停が成立しない場合でも、当事者は調停を試みて良かったと言っているとのことである。MAMIFによるとフランスにおける調停の成功率は86%である。イギリスのReniteでも調停の75%が裁判によることなく解決できたとのことである(前記ReniteReport at 49-50頁)。
以上要するに裁判手続による解決よりも調停による解決がより望ましい解決であることが広く認められている。
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