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2017/01/10グローバル化する事業活動と日本の国際紛争解決法制の整備 ―急がれる「日本国際仲裁センター」の設立―④

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4.東南アジアにおける最近の動き

 

このような日本の現状に反し、東南アジアの諸国においては、自国を国際経済紛争の解決センターにしようとの目的で、官民あげての経済的支援の下で自国の国際仲裁活性化のための様々な努力がなされている。この傾向は最近東南アジアが世界の中で最も活気をおびた経済市場となるにつれて特に強くなっている。以下に代表的な国・地域について紹介する。(注2)

 

(1)香港

香港における中心的な仲裁機関である香港国際仲裁センター(HKIAC: The Hong Kong International Arbitration Centre)は、アジアの国際紛争解決の中心となることを目指して、香港政庁及び実業界からの経済的支援の下に1985年に香港島の一等地のビルであるExchange Squareに設立された独立の非営利法人である。

 

香港のADRを更に充実させるために、2017年には香港政庁がHKIACのみならず、各国の仲裁機関や仲裁実務家の法律事務所も入居できるADRセンターが建設される予定である。

 

 

(2)シンガポール

1990年3月にシンガポール政府の出資により、シンガポールの貿易・経済取引に関係する紛争の仲裁センターとして設立されたのがシンガポール国際仲裁センター(SIAC: Singapore International Arbitration Centres,)である。

その背景には、シンガポールを世界のハブと発展させ、経済の牽引力を高め、法曹界の活性化を図り、国際社会におけるその地位を高めるために、アジアの国際紛争解決センターにするという構想がある。

 

これを更に発展させるために2009年にシンガポール政府はチャンギ国際空港から車で25分の立地に、世界初の複合型紛争解決施設Maxwell Chambersを開設した。同施設内にはICCやAAA - ICDRなどの欧米の主要仲裁機関や仲裁専門の法律事務所のオフィスがあり、複数のレストランも完備されている。

 

 

(3)韓国

大韓商事仲裁院(KCAB: The Korean Commersial Arbitration Board)は韓国唯一の仲裁機関であるが、その前身は1966年に仲裁法の制定と共に設立されたが当時は商工会議所の付設の委員会としてスタートし、その後2回の組織変更を経て1980年に現在の名称に改められた。

 

当時の韓国の仲裁は訴訟類似の手続きでグローバルスタンダードとはかけ離れていたので度々の改正により、よりグローバルスタンダードに近づける努力がなされている。

 

2013年には韓国弁護士会、KCAB、ソウル市及び韓国政府の支援により「ソウル国際紛争解決センター」(「ソウルIDRC」Seoul International Dispute Resolution Centre,)が設立された。

  

 

(4)マレーシア

マレーシアの仲裁センターである「クアラルンプール仲裁地域センター」(KLRCA: The Regional Centre for Arbitration at Kuala Lumpur)は1978年にマレーシア政府の援助の下に設立された。

 

2014年にはクアラルンプール駅前に元シャリア(イスラム法)裁判所の建物を全面改装した紛争解決センターが設けられた(費用は政府負担)。19の審問室と22の準備室があり、同施設内にはPCAやCIArb、ADRを専門とする法律事務所などのオフィスがある。

 

 

(5)インド

インドには1965年に設立されたインド仲裁協議会(Indian Council of Arbitration)があり、仲裁手続の管理のほか仲裁・調停のための施設の提供等を行っていたが、2008年には世界銀行の資金で裁判外紛争解決のための国際センター(ICADR: International Centre for Alternative Dispute Resolution)がデリーに設立され、国際経済紛争の解決のための機関として認められることを目的としていた。

 

しかしながら、東南アジアにおける国際経済紛争の解決センターとしてはシンガポールが中心となりつつあり、インドの多数の事件がシンガポールのSIACで解決されるようになるに至っていた。(注3)

 

そこでかかる現状からインドをアジアにおける国際経済紛争解決の一大拠点とすべく2016年ムンバイに「ムンバイ国際仲裁センター」(MCIA: Mumbai Centre for International Arbitration)が設立された。資金は主として私企業からの寄付によったと言われている。(注4)

 

インド政府は現在シンガポールやロンドンへ行っている仲裁事件をMCIAで解決するようになれば莫大な経済効果が見込まれるとみている。(注5)

現状ではシンガポール(SIAC)の国際仲裁事件数の約25%がインドの当事者が関係しているといわれているが、これらをMCIAで解決することを企図している。(注6)

 

 

 

(6)日本

わが国には古くから海運業者のための仲裁業務が日本海運集会所で行われているが、国際商事紛争解決のための国際仲裁機関としては一般社団法人日本商事仲裁協会(JCAA: The Japan Commercial Arbitration Association)がある。

同協会は1950年(昭和25年に日本商工会議所の国際商事仲裁委員会として発足し、その後1953年(昭和28年)に独立して社団法人国際商事仲裁協会に改組され、さらに2003年(平成15年)には名称を社団法人日本商事仲裁協会に変更し、2009年(平成21年)4月1日から社団法人から一般社団法人に改組されている。主な事業は、仲裁・ADR、広報・セミナー、ATAカルネ・SCCカルネである。(注7と8)

 

しかしながら既述のとおり国際仲裁事件数は最近10年間で年間11件~27件にすぎず諸外国と事件数を単純に比較しても著しく少ないが、東南アジアの前記国際仲裁の活発な国との経済力の差を考慮すれば、日本の国際紛争解決機関として充分に機能していると言える数ではない。

 

現状では日本企業とその関係先外国企業との国際経済紛争のほとんどが日本以外の国際紛争解決機関等で解決されているといわざるを得ないのである。

 

JCAAの事務所はいずれも小さな賃借事務所であり、仲裁法廷、同時通訳ブース等諸外国に完備されているような設備は全くない。しかも公的な財政的援助はなく、事務所の維持費用は主としてカルネ事業からの収入でまかなわれており、仲裁事件等の管理費用はごく一部である。最近東南アジア諸国で進められているインフラ整備と比較すると日本は著しく遅れているといえる。

 

 

 

グローバル化する事業活動と日本の国際紛争解決法制の整備
―急がれる「日本国際仲裁センター」の設立―⑤に続く

 

 

(注2)この点に関しては、小原淳見、「国際仲裁の新たな潮流~海外の最新動向と日本の課題~国際仲裁・新たな潮流 -待ったなしのインフラ整備の必要性-、 自由と正義(Vol. 67 No. 7)2016年7月号21頁~に詳しい。香港、シンガポール、マレーシア、韓国の詳細は同論文を参考にされたい。

 

(注3)http://icadr.nie.in/

 

(注4)http://www.thehindu.com/news/cities/mumbai/mumbai-arbitration-centre-to-open-on-october-8/article9006105.ece

 

(注5)http://www.dnaindia.com/mumbai/report-mumbai-centre-for-international-arbitration-to-come-up-at-bkc-2194461

 

(注6)http://www.thehindu.com/news/cities/mumbai/mumbai-arbitration-centre-to-open-on-october-8/article9006105.ece

 

(注7)一般社団法人 日本商事仲裁協会パンフ、JCAA The Japan Commercial Arbitration Association 仲裁のご案内

 

(注8)横川 浩、「日本商事仲裁協会の取り組み」、法律時報87巻4号49頁

 

 

 

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